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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

いや彼のみか、北へ、南へ、東へ、と兵を引ッさげては出て行った幕将たちも、そのどれ一人、再び本営には帰って来ず、しかも附近いよいよ炎と化すばかりなので、ついに呼延灼もそこに居たたまらず、さいごの親衛隊と、一陣の連環馬軍とを前後に立てて、

「本営をべつな所へ移す。――彼方の小高い丘へ行け」

と、金沙灘の江畔を去り、俄に、後方の平野へ馳けだした。

こうあろうとは、すでに賊の泊軍では、知っていたことらしい。つまりお誂えのツボに嵌ったわけである。たちどころに、その行く手を声海嘯がくるんでいた。

「しまった。伏兵がいる!」

呼延灼は、前面の危急をみて、道をかえた。道なき道へ、ぜひなく馳け込む。芦、水溜り、窪地、また芦。

ところがなお、やがて縦横な蜘蛛手の縄だった。

ばたばたと、兵はつまずき、その上へまた、騎馬が来て折り重なる。

ピューッ、ピューッ、さかんなる賊兵の指笛がどこかでつンざく。――するとたちまち、カギ鎗を持った無数の影が、立ち惑う連環馬の騎隊へむかって猛然と襲いかかッてきた。

カギ鎗に引ッかけられては、さしも鎖甲の馬も不死身扮装ちの騎兵も、一トたまりさえなかった。