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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

喪旗はとりでの春を革め、僧は河北の一傑を語ること

それを、誰々かといえば。

樊瑞――あだ名を(混世魔王)

李袞――あだ名を(飛天大聖)

項充――あだ名を(八臂那)

という者たちで、いずれも投げ鎗や投げ刀の達人だった。中でも混世魔王の樊瑞は、丸型の楯をよく使い、また、道教の術を究めた方術師でもあった。

「なアおい、春だよ。もう当分は、修羅場もあるめえぜ」

「まったく、殺し合いにも、少し飽きたな」

「ごらんよ、水寨の辺を。柳はみどりの新芽を吹き、杏花や桃も笑いかけてる」

「むむ、女衆や年寄りの畑打ちも始まったね」

殺伐な男どもにも、春は人並な多情多感をそそるらしい。あちこちの若草にころがって、ここ、ちょっと途ぎれていた血臭い修羅場を忘れかけていた。

ところが。

例の対岸の見張り茶屋にいる見張り役の朱貴が、ある日一人のひょろ長い痩せッぽちの男を泊内へつれて来た。州生れの金毛犬とアダ名のある段景住という者で、

「どうか、お仲間の端に加えておくんなさい。てまえ、なんの能もありませんが、そのかわり天下に二頭とない名馬をお土産に持ってまいりました」

と、いう。

しかし彼は、その名馬とやらを、ここへ持って来たわけではない。途中で横奪りされてしまったというのである。