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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
この大牢の牢屋預かり兼首斬り役には、蔡福、蔡慶といって、鬼の兄弟がいた。
凌雲の気 堂々の男
誰とかなす 押牢の蔡福なれ
青鸞の帯 無角の頭巾
歩むところ 草木おののき
声きけば 哭く子もやむ
名けたりな そのアダ名も鉄臂膊とは
これは兄の方だが、弟の蔡慶にも、街詩があって。
らんらんの眼には毛虫眉
衫衣に繍わせた 吾亦紅
あまりに人がこわがるので
に挿したよ 花一枝
彼はつねに帽の傍に何か花を挿す習慣を身につけていたので河北の人は彼を、一枝花の蔡慶とも呼びならわしていた。
「おい蔡慶。新入りはちと大物だ。番をたのむぞ。おれはちょっくら家へ行ってくるな」
その夕、弟にあとをまかせ、蔡福は大牢の路次を曲がりかけた。と、薄暗がりの物蔭から走り出た蝙蝠のような人影が、ペタと彼の前にぬかずいて。
「お慈悲です、ご主人に一ト目会わせておくんなさい。お願いします。こ、このとおりに……」
「や、おめえは、浪子燕青じゃないか。何を手に持っているんだ」
「お粥です。ご主人に食べさせたいと思って。……この小瓶に半杯の粥を、やっと街で工面して来ましたんで」
「ふーむ。主人思いだなあおめえは。……ま、いいや、自分で持って行って、食べさせてやるがいい」