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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
蔡福は言い捨てて行ってしまった。宿なしの燕青には世間の同情があったらしい。蔡福はそんなことを考えながら大街通りの州橋を渡っていたが、するとまた、
「おかしら、うちの二階に、お待ちかねのお客さんが、さっきから見えてますよ」
と、馴じみの女が呼びとめる。
茶館の二階に待っていたのは李固だった。うしろの扉を密閉すると、李固は延金で五十両を卓においた。そして“闇から闇へ”の取引きを初め、蛇の道はヘビ、多くはいわないでも……と謎をかけた。
蔡福は、わざととぼけて、
「はてね。なんのおはなしで?」
「いやですぜ、大牢のおかしらが。諺にも、おなじ穴の貉は化かし合わぬ、というじゃありませんか」
「貉になれっていうわけかい。おい李固さん、お役所前の戒石に、こう彫ってあるのをしらねえな。――下民ハ虐ゲ得ルトモ、上天ハ欺キ難シ――と。真っぴら、真っぴら。後日、提刑官(監察)に睨まれて、かかりあいになるなんざアご免だよ」
こいつはいけないと見たので、李固は相場を上げた。五十両を百両にし、百両を二百両、さらに三百両とまでわれからセリ上げてみせると、もう蔡福の顔色もはっきり欲にうごいている。