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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
聞くと蔡慶は手を打って笑った。
「運はかさなるもの。いい目と出初めると切りがねえな。どっちも戴いておいたらいいさ。――梁山泊の使いだって、くれたのはあっちの思惑。なにも盧員外の身を生で渡せというんじゃなしさ。……なんとかズルズル延ばしてりゃあ、そのうち片がつこうというもんじゃねえか」
「なるほど。じゃあこうしよう。おめえは盧の旦那にこっそり事情を話せ。そして朝晩の糧も上々な物にしてあげて、おからだを大事になさいと耳打ちしておけ」
もちろん、これには蔡の兄弟にしても、上役から下ッ端までへの心づけがだいぶ要る。しかしおさまらないのは、あくる日、顔をみせた李固であった。
「まあ、李固さんよ、そうふくれなさんな。明け方、盧をねむらしちまおうと思って、獄飯の中へ一服盛ってると、急に、中書さまのご意向が違うッてんで、大まごつきさ。どうも長官閣下か、まわりの者か、そこは知らねえが、盧をころすまでの腹じゃあねえらしいんだな。ひとつ、そっちの方を運動しなせえ、こっちはいつでも、やれるんだから」
李固はてんてこ舞いした。色と欲、生涯のわかれめだ。ここで老舗の財産半分をつかっても、もとはひとの物、安い物、そんな料簡からに違いない。