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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

そこらには、欠け茶碗がある。火を燃した跡もある。

「ああ、うまくいった。天のたすけだ。大旦那え……」と、燕青は、肩から主人のからだをズリ降ろしながら言った。「もう、ご心配なさいますな。ここなら人に見つかりッこはありません」

それからの彼は、たとえば、巣に病む親鳥へ子鳥が餌を運ぶような可憐さだった。朝夕、心から主人の盧俊儀をいたわった。仕えること以前とすこしもかわらない。

盧はそのたびに慚愧した。彼の手をとって「……すまない」といっては詫びた。燕青はまた打ち消してそれを笑う。幼少から可愛がられてわが子同様に十九のこの年まで育てられたご恩に比すれば、こんなことぐらいは、謝恩の万分の一でもありません、というのだ。

そして時々、彼は例の四川弓を持って、鵲や雉子を射に出かけた。また谷へおりては、川魚や川苔を採って帰った。しかしいつも木の実やそんな物ばかりでは主人の体に力もつくまいと思って、あるとき、そっと山腹の部落へ粟を買いに行った。

ところが、部落の口にも辻にも高札が立っている。――北京ノ囚人盧俊儀、及ビ、ソノ護送役人ヲ殺害シテ盧ヲ奪イ去ッタ大罪人ヲ訴エ出デヨ、という莫大な懸賞つきの布令なのだ。