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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「ひぇっ。断罪ですって?」

たいへんな群集である。黄色い埃りですぐ知れた。空地の草ッ原では、はや執行の寸前とみえ、正午ノ刻の合図を待って、首斬り刀に水を注ぐばかりらしい。

すぐ前は、十字路だった。角の酒館の階上では、たくさんな顔が、鈴なりに見物している。中に、石秀の異様なる双眼も光っていた。

刻の太鼓が、近くの鼓楼で鳴りだした。それッと、役人たちの蟻のような影が中天の陽の下で忙しく動きはじめる。――と、まだ太鼓の音が刻ノ数をも打ち終らないうちだった。酒館の窓から廂屋根の尖端へおどり出した一箇の怪漢が、片手には剣、片手に拳を振りあげて大音声をふりしぼった。

「待てーっ。盧員外に手でも触ると命はないぞ。梁山泊の勢揃いを知らねえのか。そこらには、梁山泊の者が大勢来ているのを!」

もちろん、嘘である。だが、これしかほかに策はなかったのだ。叫ぶやいな、石秀はそこをとびおりて刑場内へ斬りこんだ。そして、うろたえ騒ぐ刑吏や獄卒をけちらして、一瞬の旋風の如く、盧のからだを奪い去った。肩にかついで逃げ出したものである。

たしかに「梁山泊の勢揃いだぞ」といった機智が、功を奏したものにはちがいない。