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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

残念だがここはまア負けておけ。戻ってゆけば犬死にだ。……だが、待てよ。これはしまった」

わが姿に気づいてみると、大事な頭陀袋を掛けていない。落したかと慌てたが、よくよく考えてみると、さっきの庫裡で、粟粥をふうふう吹いて食ううちに、粥をこぼしたので、脱いでおいた覚えがある。

「こいつは困った。あの中には大相国寺の智清禅師へ宛てた智真長老のお手紙が入っている。取りに帰れば、石橋でふんづかまるし。……といって、あれ持たずには東京へ行く意味もない」

彼は石橋を渡らずに戻れる道はないかとうろつきだした。すると渓谷へ降りる道があった。そこを沈んで彼方へ登ると、瓦罐寺の北へ出た。あたりは赤松林である。行けども行けども赤松ばかりと思われた。ところがやがて忽然と、こんどは死の林みたいなところへ出た。おそらく一院の古い焼け跡でもあろうか。見みかぎり一点の緑もない枯れ木林だ。しかも今、彼の跫音に、ふとその辺の岩蔭から、すっと起って、こっちを振り向いた白衣の人影があった。人馴っこく智深のほうへ近づいてでもくるのかと思うと、白い人影は、彼を見て、

「ちっ。くそ坊主か」

唾でもするような舌打ちして、後も見ずに、枯れ木の間を縫い去ってゆく。