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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

智深は彼の「……べっ」と唾を吐いた唇鳴らしが気にくわなかった。一跳足に追いすがって、錫杖を横構えに。

「やいっ、待て。なんでいま、きさまアおれをあざ笑ったか」

「笑いはしない、くそ坊主かといったまでだ」

「ここには、ほかに人間はいない。おれのことをいったと思う」

「思うように思っておけ。たぶん当っているだろう。ほんとの坊主なんてものは、近ごろ世間に見たこともないからなあ」

言語は爽やかだし、姿もすっきりした男である。白衣は行者姿のもの。或いは、丘小一の仲間かもしれない。

陽は沈みかけている。男は彼方の廃院へでも急ぐのか、ふンとまた、鼻で笑いすてて歩き出した。その虚や狙うべしと思ったか、智深は突嗟に、

「かッ」

丹のごとき口を開いた。振り込んだ錫杖の下、白衣は朱と思いこんだ。ところが男は、ついと、横に移っていた。静かに腰の戒刀へ手をかけて、

「坊主、見違えるな。おれはなにも死神じゃねえぜ。命をもらっても仕方がない」

「な、なにを、生意気な」

相手も次の錫杖は待たなかった。抜く手も見せぬ迅さである。振りかけた錫杖がもし斜めに魯智深の眉間を防がずにいたら、彼はきれいに割られた瓜みたいになっていたかもしれない。