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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

ところで、これはやや宵の口に入ってからのこと。

おなじく梁山泊の一員で、元来、貴人の風格のある例の小旋風柴進は、衣冠帯剣の身なりで、九紋龍史進と浪子燕青のふたりを供人に仕立て、大名府の小路の角に、さっきから、かなり長いことたたずんでいた。

折ふし、この夕、華やかに扮装った鉄騎五百人と軍楽隊との“元宵の行列”にまもられて城中の“初春の宴”から退がってきた梁中書の通過を、男女の見物人とともに見送っていたものらしいが、やがて群集が崩れ散ると、早足に、管領庁の門を、颯爽として入って行った。

「…………」

はっと、門衛はそれに敬礼した。

怪しむにも怪しみえない大官と見えたものにちがいない。

だが、庁内もずんと奥の、大牢門と呼ぶ獄界の境まで来ると、ここではふとスレちがった男が、

「おやっ?」

と、巨眼を光らして、振返った。

柴進も、ぎょっとして立ちどまる。が、それは死刑囚あずかりの押牢使蔡福だった。――かねてこの蔡福、蔡慶の兄弟には、その私宅で柴進から莫大な砂金が賄賂されていたことである。――蔡福はジッと相手を睨まえてはいたが、

「…………」

何もいわない。

いや、黙って行ってしまったばかりでなく、足もとへ何かチンと落として去った。