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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

拾い取ってみると、それは大牢の鍵だったのである。「よし! 事すでに成る」と、柴進はよろこんだ。そして燕青、史進をひきつれて、死刑囚ばかりのいる大牢長屋へ馳けこんだ。

「あっ待てッ。通るのは、何者だっ」

「蔡福の弟。蔡慶か」

「いかにも一枝花の蔡慶だが」

「わしは梁山泊の柴進だ」

「げっ、柴進? ……。かねて兄貴から、名はきいていたが」

「ならば、委細のいきさつも聞いていよう。また、これにいる浪子燕青も顔見知りのはず。すぐ大牢を開けて、獄中の盧俊儀と石秀のふたりをわれらに渡してくれい」

「そいつはだめだ。鍵はいつも兄貴が肌身を離したこともねえ」

「いや、鍵はここにある」

「えっ? オオほんとだ。どうしてこれを」

「蔡福はもう梁山泊入りと覚悟をきめ、今頃は家に帰って、家財家族の始末をしているにちがいない。君もすぐ家へ帰り給え。そして、兄と共に身支度を急げ。まもなく、北京全市は炎の海と修羅になるぞ」

いかに柴進が言っても、ことばだけでは、蔡慶には信じられなかったが、しかし、じつにこの時といっていい。夜空にあたって、奇怪な火の粉と、魔の雲に似た黒煙が見えだしていた。

城楼からの出火だった。