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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「おや、豪勢なお取巻きだね、あの花魁はいったい誰?」

妓と妓は、顔見合わせて、まるで耳こすりでもするように、宋江へ囁いた。

「あれが廓一番の、李師々大夫さんですのよ」

「へえ、李師々大夫」

「だめですよ、岡惚れをなすっても」

「どうして」

「だって、今上の天子さまがお馴染みで、毎度毎度、お通いになっている高嶺の花、いいえ、お止山の花ですもの」

「はははは、じゃあ何ともわれわれでは仕方がないね」

「だから、妾たちにしておきなさいよ」

「どういたしまして、君たちでも、もったいない」

「うそばッかり。お杯もくれないで」

いつのまにか、燕青はここの席から消えていた。何事かを宋江から耳打ちされて、斜向いの大籬の門へ、すうっと、入って行ったものである。

内は前栽から玄関もほかの青楼とはまるで違う上品な館づくりだ。長い廊から廊の花幔幕と、所々の鴛鴦燈だけが艶めかしいぐらいなもの。

「あら哥さん、あんた誰? どこへ行くの?」

「オ、禿さんか。じつはね、ご内緒のおっかさんに会いたくって来たんだが」

「おっかさんなら、あそこでお客さんと話しているわよ」

「ほ。……あの肥えた女のひとがそれかい」