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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
なんとも、すずやかな香味ですわい」
「さる高貴なおん方の賜り物です。これがお分りなれば田舎者どころではございません。お目にかかれてうれしゅうございます」
「てまえこそ、近頃の倖せ。お名の高い大夫には、こうしてお話ができたし、またお手ずからなお茶までいただいて」
「ごゆるりと遊ばしませ」
李師々大夫は言ったが、折ふし、わらわらと禿や新造が小走りにそとまで来て。
「大夫さんえ。お上が、裏の御門へお成りでござんすぞえ」
「ま。あいにくな」
と、李師々は、宋江へ、気の毒そうに、
「あすならば、お上も上清宮へ御幸なされて、ここへはお渡りもございませんのに。――どうぞ、これにお懲りなく、また」
と、その雲花顔に、一顧万金の愛想笑みをこぼして、金簪瑶々と立って行った。
宋江たちは、やがて外へ出て、小御街から天漢橋を渡りながら、
「さすが、目にのこるような美人だったな」
と、李師々の噂をしながら、橋畔の樊楼のまえまで歩いて来た。
すると、樊楼から出てきた二壮士がある。酔歩まんさんと、何か歌って行く。歌は、三尺の剣、志をえず、いたずらに泣く――といったような物騒きわまる悲歌だった。