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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
そしたら皆さんにも、晩には、おすそ分けをいたしましょうかね」
「あっ、あんな大口を叩いて行っちまった。……かわいそうに、ちょっと、愛嬌のあるいい若者なのに、またことしも一人、血ヘドを吐くのか」
唖然として、そのたくさんな顔も、やがて鞋やわらじをわれがちに穿き込んでいた。そして泰岳の上ではもう暁をやぶる一番の刻の太鼓につづいて、玲々と鳴る神楽が霞のうちにこだましていた。
飛燕の小躯に観衆はわき立ち、李逵
の知事服には猫の子も尾を隠す事
泰山はこの日、人間の雲だった。わけて東岳廟を中心とするたてものの附近は社廟の屋根から木の上までがまるで鈴なりの人である。
奉納大相撲はそこの嘉寧殿とよぶ高舞台でおこなわれ、例年のごとく、ことしも州の長官閣下とその妻女やら役人だのが桟敷に見え、波のごとき群集はのべつ揺れ騒ぎながら一ト勝負ごとにさかんな喝采や罵声を舞台の力士へ送っていた。
土俵はない。
勾欄を繞らした高舞台そのものが土俵である。
やがてばんかずも進むうちに、勾欄の一角に錦繍の幟が立った。わアっと同時に四山六岳もくずれんばかりな歓声が揚がる――。いよいよ天下無敵と称する天柱任原の出場なのだ。