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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「おい、きみが教師か」
「はっ、さようで」
「俺がわかるか」
「へ?」
「わかるかよ、この俺が」
「どこかの、知事さまで」
「そうだ、そうだ。今日は一つ小学塾の視察に来たんだが、なにを今、教えていたのか」
「神農の話を聞かせておりました」
「神農とは何だ」
「天地の始めに人間たちへ病を癒す薬草や喰べ物を教えてくれた仙人なので」
「古い古い。そんな講釈よりは、おお、みんなの机の上に筆硯がおいてあるじゃないか。習字をさせろ」
「はっ、いま習字は終ったところですが」
「いいからさせろ。そうだ、そこの壁に大きく黒旋風とお手本に三字書いて、子供らに書かせるがいい。おれも習うから」
「へえ。黒旋風とは」
「俺の名だよ。俺はまだつい自分の名が書けずにいるから、ちょうどいい。ここで一つ覚えて行く」
李逵は空いている一つの机に向って本気で手習いをし始めた。それを見ると子供たちは忽ち組しやすいおじさんだと見たか寄ッてたかってキャッキャッと笑い出した。字にも何にもなっていないからである。
「こいつら、なにを笑う」
李逵は墨をぶッかけた。すると学童たちは、俄然、このおじさんへ向って恐い物知らずに筆や墨汁を投げ返して来た。