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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「なに。おれの武芸をみせろというのか。そんなことなら無料ですむ。おやすい頼みだ」
さらぬだに、久しく振ってみなかったかの鋼鍛え重さ六十二斤の鉄の愛杖。それを取るや、酒の莚を離れていった。まず片手振りを試み、また八相、青眼、刺戟の構えを見せ、さらに露砕、旋風破、搏浪、直天、直地の秘術など、果ては、そこに人なく、一杖なく、ただ風車の如き唸りと、円をなす光芒がぶんぶん聞えるだけだった。
すると何者か。近くの破れ土塀の崩れの辺で、
「ああ、見事。……すばらしい!」
とわれを忘れて、つい発したような声がした。
その声に、智深はつい気合いを外してしまい、しんとしていた与太もンたちの群れへ。
「誰だい? あんなところから覗いて、いま妙な気合いをかけおったのは」
「お。……ありゃあ花羅漢さま。武芸のほうじゃあ、たいしたお方でござんすよ。城八十万の禁軍ご指南役の一人、林冲と仰っしゃるお武家で」
「なに、林師範だって。そいつあ、えらいもンに見物されたな。ごあいさつせずばなるまい。おい、誰か行って、丁重にお呼びしてこい」
鴛鴦の巣は風騒にやぶられ、
濁世の波にも仏心の良吏はある事