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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「どうです、安いもんでしょう。三千貫とは」
「刀か。刀は腰にもある、家にもある。いらないよ」
「そうか。お武家もお盲さんか」
「なに」
「そんな、ざらにある駄刀とはちと違う。眼があるなら、抜いて見さッせ」
「なるほど、拵えは良さそうだな」
「ちっ。素人くさい。柄拵えや鞘作りを売るんじゃねえぜ。いらんか」
「まア、待て」――つい好きなので手をのばし、刀の鯉口下三寸の辺をぐっと握ってみた。男は手を放す。林冲は思わず、むむと心で唸った。
持ち味、たまらない触感と重みである。鞘を払ってみれば、夕星の下、柄手に露もこぼるるばかり。
ためつ……すがめつ……彼の眸は稀代な銘刀の精に吸いつけられ、次第に放しともない誘惑に駆られていた。
「浪人、どうしてこんな神品を手放す気になったのか」
「どうしてって。……この襤褸姿を見てくれればわかるだろう。飢えた妻子が待っている。それ以上、訊くのは罪だ」
「訊くまい。いくらだ」
「昨日今日、三千貫とわめいてみたが、売れない。御辺を眼のあるお人と見て、半分に負けてやる」
「欲しい。だが少々、金が足らん」
「一千貫。あとはビタ一文も引けない。それでよければ」