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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

……早くどこかへ身を隠せ。そして、そなたはまだ若い身そら、良縁があったら他家へ縁づいて、わしのことは忘れて幸福に暮しなさい」

彼は即座に、酒店の老爺から、筆と硯を借りうけ、離縁状を書いて、岳父にあずけた。

「お情けないっ。……あなたは私を、そんな女と思っていらっしゃるんですか。いやですっ。……死んでもそんなことは」

妻は悶絶せんばかり、なお良人の膝にしがみついて慟哭する。その間にも、護送の役人は、軒を叩いて、

「早くしろ、早く」

と急く。ついに舅は泣き狂うむすめを無理にもぎ離し、ともに擁して泣き死んだように丸まってしまった。それを見捨てて、林冲の姿を急く腰鎖は、遠い流刑地の途へ仮借なく彼を追いたてていった。

押送役の刑吏は、端公(端役人のこと)の董超と薛覇という男だった。当時、宋代の習慣では、囚人をつれた端公の泊りには、道中の旅籠屋でも部屋代無料の定めだった。だから彼ら小役人は、旅籠へつくなり自身で火をおこし、粟を炊き、出張費稼ぎの小金を浮かせるのを役得としていたから、囚人の食物などは、ただ露命を保たせておけばいいとしているに過ぎない。

東京城の関外へ出てから二日目、小さな宿場町へ黄昏れ頃つくと、とある田舎酒館の前に馬を駐めて、彼らを待っていた男がある。