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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

黒紗の袍を着て、卍頭巾、黄革の膝行袴ばきに、馬乗り靴という扮装。そして鞭を逆手に、

「おお端公たち、いまついたか、ご苦労ご苦労」

と、何かすでに、ここでの会合を東京で諜し合せておいたことらしく、眼くばせくれると、端公らは、ただちに附近の旅籠へいって、林冲の腰鎖を部屋の柱に縛りつけ、そして早速、以前の田舎酒館へ引っ返してきた。

卍頭巾の男はもう、卓に酒肴を並べさせて待っていた。そして、銀子二十両ずつ、二た山にして、彼らの卓の鼻先においてある。

「さあ、遠慮なく飲まんか。これから滄州まで何百里の道のりだが、途中にはもうろくな酒肴には出会わんぞ」

「へい。どうも恐れいります。……が、なんともはや、殿帥府副官ってえお偉い方の前じゃ、ついその、かたくなっちまいやしてね」

「なにも公ではなし、そう恐れいらんでもいい。こちらも人目をはばかることだからな。そこで開封奉行所を立つ前日、そのほうどもの私宅へ、そっと使いをやっといた例の件だが、心得たろうな」

「……そ、それがですよ旦那。弱りやしたな。こう二人で、首つき合せて相談してみたんですが、なにしろ奉行所のほうじゃ、必ず囚人の生命だけは無事流刑地まで押送せよ、万一あらば端公もまた、罰せらるべし……とございますんでね」