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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

それがまた耳について、寝つかれなかった。

「や、や。変に明るいぞ」

ぎょっとして、彼は飛び起きた。廟の破れ壁の隙間から、赤い夜空が見えたのだ。

「しまった! まぐさ小屋の方角だ」

彼のあたまには、すぐ小屋の炉の火がその原因と考えられていた。まぐさ小屋は一棟ではない。たちまち馬糧廠一面の火の海となるやもわからない。

「すわ、こうしては居られぬわえ」

枕もとに立てかけておいた朱房の槍を持ち、すぐその消火のために馳け向おうとしたときである。彼はギクと足を立ち恟めた。

廟のすぐ前で、なにやら人声がしているのだ。聞くともなく、耳をすましていると。

「うまくいったなあ、管営。……やあ、差撥もご苦労だった。これで林冲も、こんがりと、黒こげになったろう」

――声には都で覚えがある。高大将家の副官、陸謙にちがいない。

それに答えているのは、これも紛れない管営と差撥だ。もう一人いるのは、陸謙の連れの富安だろう、かなたの猛火を眺めあいながら、しきりにげらげら笑っている。

「まったく、管営さんや差撥さんの大手柄でしたな。この大雪を幸いに、部下に命じて、林冲の寝込みを計り、小屋の腐れ柱を一気に除らせたというんだから堪りませんや。