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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「ここ数年、五穀のみのりも思わしくありません。加うるに、この春は、天下に悪疫が流行し、江南江北も、東西二京も、病臭に埋まっております。家々は飢えにみち、病屍は道に捨てられてかえりみられず、夜は群盗のおののきに明かすという有様でございますから」
「ふうん。そんなにひどいのか」
「そこで、検非違使の包待制のごときは、施薬院の医吏をはげまし、また、自分の俸給まで投げだして、必死な救済にあたっておりますが、いかんせん、疫痢の猖獗にはかてません。このぶんでは、地上の人間の半分は、死ぬだろうと恐れられておりまする」
「それは、ゆゆしい事ではないか。さっそく、天下の諸寺院に令して大祈祷をさせねばならん」
国土の患いでも、一身の乱でも、なにか大事にたちいたると、すぐ、加持祈祷へ頼むところは、わが朝の藤原時代の権門とも、まったく同じ風習だった。いや、それが文明社会に近づきつつまだ文明にほど遠かった当時の人智だったというしかない。
江西への旅は遥かだった。しかし、旅にはよい仲春の季節でもある。禁門の大将軍洪信は、おびただしい部下の車騎をしたがえて、都門東京を立ち、日をかさねて、江西信州の県城へ行きついた。