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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
今はなすこともなし、ほかに職を探す意志も出ない。すでに復職の運動や賄賂のため、売る物は売りつくしていたし、明日の食にも困る窮状に追われてきた。
「そうだ、ここに祖先から伝わる一腰の名刀だけが残っている。これを売って、身寄りの老幼に頒け与え、あとを路銀として、どこか遠い他県へ行って、身の振り方でもつけようか」
その日。――彼は一剣を持ち出して、それに売り物の“草標児”をさげ、馬行街の四ツ辻に立っていた。
しかし、なかなか値段を訊いてくれる者さえない。そこで楊志は、午過ぎから天漢州橋のにぎやかな橋袂に河岸を変え、
「名刀の売り物だ。この稀代な宝刀。たれか眼のある人に譲りたいが」
と、道行く人々に、呼びかけていた。
すると、胸毛もあらわな大男が、ずかずかと彼の前へ近づいてきた。ぷウんと、酒気と油を交ぜたような体臭が鼻を衝く。――それを見るや往来の者はすぐ、
「そら、無毛虎が何か刀売りへ突っかかっていったぞ」
「毛無シ虎の牛二が、またなにか、因縁を付けるんじゃねえか」
と、囁き合って、もう辺りは人立ちの様子だった。
案の定。――無毛虎の牛二といわれる街の悪は、のッけから、楊志を見くびッて、からみ始めた。