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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

――が、彼の上半身は、ひょろと、空を泳いでいた。と見えたのも一瞬である。見物人の眼には、一朶の血の霧が、バッと、大輪の花みたいにそこで開いたかのように映った。

「わああっ……。やった!」

まさかと思っていたのだ。呻きに似た群集の声には戦慄がこもッていた。すでに見る楊志の足もとには、真二つとなった毛無シ虎の巨体がピクともせずぶっ仆れている。そして彼が垂直にして持ち捧げていた長剣には、なるほど、血脂の曇りもとどめていなかった。

「街のみなさん」

彼はそのままな姿勢で群集へ向って告げた。

「――おしずまりください。あなた方にご迷惑はおかけしません。見られたような仔細で、てまえはついに白昼、この天漢州橋の大道で人を殺めました。法罰、のがれ得るところでない。あなた方が生き証人だ。これから奉行所へ自首して出ます。そこを開いてお通しください」

彼の態度は立派だった。群集はそれにも感動をうけたらしい。聞き伝えて、彼が入った奉行所の門前には、庶民が群れをなして、

「毛無シ虎が悪いんだ。牛二はふだんから街の者を泣かせ、なに一つろくな真似はしていない。刀売りを助けてください」