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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

青面獣の楊志、知己にこたえて神技の武を現すこと

と、口々に叫んだ。――以来、毎日のように、嘆願書やら差入れ物やら、楊志のためにはと、義金まで募ッて、あらゆる助命運動が、街の有志によってつづけられた。

六十日間の留置期間に、彼の処分もほぼきまった。官辺でも、折紙付きの毛無シ虎には、手を焼いていたところだし、吟味役人から牢番にいたるまでが、ことごとく楊志の同情者であったことも、情状の酌量を容易にしたらしく、

「――北京ノ地へ流罪トナシ、大名府留守司ノ軍卒ニ貶スモノ也」

これが、罪の判決であった。同時にまた、

「所持ノ宝刀ハ、是ヲ官ニ没取ス」

とも、言い渡された。

定法どおりに、額に金印(刺青)を打たれたのはやむをえない。だが、追ッ払いの背打ちの棒もかろく、やがて護送使の手で、はるか北京の空へ差し立てられていった。

青面獣の楊志、知己にこたえて神技の武を現すこと

北京は、当時、大名府ともいい、五代各国の首府としても名高い。

“河北、治レバ天下治リ。河北、乱ルレバ天下乱ル”

唐の世代から、すでにそんな言葉があるとおり、西に太行山脈、東に遠く渤海をひかえ、北方に負う万里ノ長城は、北夷の襲攻にそなえ、不落の名がある。