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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「いやどうもご苦労さまだ。こんな時にかぎって、小泥棒一ぴき見当りはしねえ。なんのことはねえ紅葉狩りにきたようなものさ――」
帰路は夜にかかった。お互い逆に道を換えて、松明を振りつつ山を降ッたのである。
すると、その雷横組のほうが、麓ぢかい霊官廟のほとりまで来たときだった。ひょいと見ると、廟の扉が、魔の口みたいに開けッ放しになっている。
「おや、廟守もいねえのに、おかしいぜ」
雷横はふと立ち止まった。多年の直感が何か異臭をそこに嗅ぎつけたものらしい。
「やいやい。念のためだ。松明を持って、踏み込んでみろ」
雷横の一と声に、部下の捕手たちは、どやどやと廟のうちへ躍りこんだ。
するとそこには蜘蛛の巣だらけな暗闇を天国として、一人の大男が、お供え物の卓の上に、まっ裸な体を載せ、丸めた着物を枕に、高いびきで熟睡していた。
「ほう、凄げえ面して寝ていやがる……。眼も覚まさねえぜ」
と、捕手もあきれた。
毛脛、胸毛、まっ黒な肌。裸足に馴れた足は象の皮みたいだし、顔は赤痣だらけで、眉毛などあるかないかである。おまけに厚い唇から涎をたらして、正体もない寝ざまなのだ。
「……ははあ、兇状持ちの股旅者ンだな。