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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

もう一名の付添い人、執事の謝といえど、こんどの旅では楊志にむかって一切不満も愚痴も言いだせるものではなかった。

とまれ、北京の城門を出てから、はや十数日。この間、雨を見たのは、たった二回だけで、それも物凄い雷雨をともなった一瞬の大夕立だけでしかない。あとは来る日も来る日も、炎天の道中だった。

楊志はその晩、旅籠に着くと、兵の強力と、執事の謝、あわせて十六人へ、言い渡した。

「さあ、旅はこれからが本旅だ。――北京は遥か後になり、行くての都はまだまだ遠い。――風流にいえば千山万水だが、いよいよ彼方には二龍山、桃花山、傘蓋山、黄泥岡、白沙塢、野雲渡などという難所切所やら野盗の名所が、行く先々にひかえている。……そこで、こちらも腹をすえなくてはならん。ただの荷運びだけが能ではないぞ」

不気味な警告を、こう浴びせて、

「だから、明日からは、寝坊してよろしい。朝は朝寝して、ゆっくり立つ。その心得で休養をとれ」

と、つけ加えた。

だが、兵たちは、うれしそうな顔でもなかった。その日旅の寝小屋で枕につくと、耳こすりで騒めき始めた。

「おい、用心しろよ。青痣がまた、ヘンなことを言いだしたぜ。