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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
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「おや? ……。おれは?」
ふと我れに返り、自分の姿を見廻した青面獣楊志は、二日月の影を、凄い空に仰いで、
「そうだった。計られたのだ。計られじ、計られじ、と思いつつ、ついに俺も、不覚な罠に」
慚愧にたえぬもののように、両の手は、髪の根をつかんでいた。潸然として、無念の涙が頬をくだる。
「なんで生きて北京へ帰れよう。さらばとて、都にはなお容れられぬ身、そうだ、断崖から谷へ身を投げ、黄泥岡の鬼となって、世々の旅人に、こんな馬鹿者があったと、語り草になるのが、せめてもの身の始末。それしか、とるべき道はない」
蹌踉と、彼は、鬼影を曳いて歩きだした。
ほか十六名の影は、寂として、まだ地に伏したままである。彼が、いちはやく、気を取りもどし得たのは、あの毒酒を、彼のみは、椀の半分ほどしか飲んでいなかったためだろう。――が、それも今や、死の岩頭に立った身には、何の僥倖と思われるはずもない。
「生れて、三十余年。これで死ぬのか。いったい何しに、生れてきたのか」
死の谷を見おろした刹那、楊志の胸には、過去三十年の自身の絵巻が、いなずまの如く振返られた。