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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

肉を炒かせ、飯をあつらえた。小酒屋へ入って、飲まないのも悪いと考えてか、その間に、

「酒も少し……」

と、飲めるような顔でいった。女は世話女房ふうの女だが酌の仕方は馴れている。

飲めぬ口なので、青面獣が炎面獣のような火照りになりだした。肉を食い、飯をつめこみ、やおら野太刀を持ち直して腰をあげた。いささか、夜来の自失を取りもどし、足どり、眼づかい、ようやく本来の彼に立ち返っていた。

「あら、お客さん。お忘れじゃあ、困りますよ」

「なに。なにがよ」

「お勘定を、どうぞ」

「なるほど。そうだったな」

「ご冗談を」

「じつは、文無しだ。だが、おれも男だ、きっといつか来て払うよ」

「とんでもない、旅の人なぞに」

楊志は、耳もかさない。女は叫ぶ。そして、しつこく、どこまでもと、追いすがって来る姿を、

「うるさい」

と、一ト睨みに、ねめすえて、また、

「はははは」と、大声で独り笑った。

「おばさん、おばさん。この男一匹を、そうみじめに追い詰めるなよ。これでも、もとはしかるべき家柄に生まれ、ちょっぴり肩書などもあった者だよ。いまにきっと返しにくるから、今日のとこは、貸しておきなよ」