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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

――もし寸前に身を跳び開いていなかったら、楊志の形はもうなかったにちがいない。

「――あッ」

と、楊志も腰の野太刀を噴射するように抜き払っていた。そしてすぐもう一度、

「……あっ?」と、驚きをあらたにしていた。

相手の大坊主が、せつなに、法衣の諸肌を脱ぎ、その肌一面の花の如き刺青が、ばっと眼に映ったからだった。

「やあ、花和尚。鉄杖を引け」

「怯んだか、腰抜け」

「そう毒づくなよ。まんざら、縁のない仲でもなかった」

「巧く言やがる。どこのどいつだ」

「おれもおぬしも、ともに開封東京にいた者同士よ。まずこの面の金印(額の刺青)を見てくれ。高一味の悪官僚のため、むじつの罪に貶されて、北京の卒に追いやられた楊志という者」

「じゃあなにか。都の天漢州橋へ、伝家の名刀を売りに立ち、あの雑閙中で絡んできた無頼漢の牛二を、一刀両断にやッてのけた、当時評判だった、青面獣の楊志というのは」

「お。かくいう拙者だ。――そのころ、おぬしは郊外の大相国寺で、野菜畑の番人を勤めていた花和尚魯智深であろうがの」

「や、や。こいつア思いがけない出会いだ。どうして、わが輩をご存知か」

「その刺青は、都の名物と、三ツ児でさえも花和尚の名とともに知っていたもの。