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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
振り返った晁蓋は、変に思って、
「そういうのは、朱同じゃねえのか」
「御用ッとは、言いませんよ。もッともッと、迅く逃げておくんなさい」
「どうしてだ、追手のおぬしが」
「どうだっていいや、そんなことあ。ただ、村の者も悲しむだろう。あっしの縄にはなおさら掛けられねえ名主さんだ。いっそ、梁山泊へ落ちて行くまでも、とにかく生きていておくんなさいよ」
「ありがとう! 忘れねえぜ、いまの言葉は」
「あっ、いけねえ、森道を狙って、向うの部落から雷横の手勢が出てきやがった。名主さん、かまわねえから、そこらの黍畑を突ッ走って、とにかく南へ南へと急ぎなせえ」
言い残して、朱同はわざと、雷横が出てきた方へ馳けていった。
雷横は、朱同が馬で飛んできたのを見ると、すぐ声をかけた。
「朱同じゃねえか。賊はどうした?」
「こっちこそ、訊きてえところだ。部落の内には、不審はねえのか」
「はてね。偵察長は、朱同がすぐにも召捕りそうな懸け声をかけていたが」
「うんにゃ、こっちは空追いを食っちまった。すると、そこの森道かな?」
「ならば、ほかに道はねえ。それっ、森の中を狩り立てて行け」
これはまさに、二人の腹の探り合いだった。