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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
しかのみならず、ひとたび、張三というその道の達人にかかったおぼこ同様な婆惜は、初めて男を知ったなどという生やさしいものではないその性来の性に、われながら持て余してきた恰好だった。元々、淫蕩の血は母の閻婆にあったものだろうが、その閻婆すらが、時には階段の下で舌ウチするほど、二階の帳の内で男にさいなまれる彼女の体が、囈言じみた情炎の悲鳴を洩らしているなども、再々だった。
自然、これは宋江の耳にも入らないわけはない。近所の囁きばかりでなく、婆惜の冷たいしぐさにでも薄々わかった。しかし、それにも彼は、彼独自な考え方で、ぼそと、独り呟いていたにすぎなかった。
「仕方がない。……女のほうからあッちへ血道を上げているのではぜひないことだ。父母が選んでくれた女房じゃなし、なにも、行かないでいればすむことだ。当分、足を抜いていよう」
近ごろは、とんと婆惜のことも忘れ、県役署へも精勤して、さばさばと、今日もそこの門から宋江は退庁していた。
時刻は、たそがれ頃である。
町角の髪結床で、ひげを剃らせていた旅人ていの男がふと、往来を行く彼を見ていた。
「おや、あれやあ、宋押司さんじゃねえか」