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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

悶々と並ぶ二ツ枕に、蘭燈の夢は闘って解けやらぬ事

悶々と並ぶ二ツ枕に、蘭燈の夢は闘って解けやらぬ事

「オヤ、オヤ。灯りも消えているじゃないか。若い娘って、ほんとにまア仕ようがないね。……だんなさん、ちょっと、ここでお待ちなすって」

わが家の門へ入るやいな、閻婆はわざと大きな声して、階下から二階へどなった。

「むすめよ、婆惜よ。おまえが待ちこがれていた押司さまにお会いしたから、むりやりお連れ申してきたんじゃないか。……そんなに鬱ぎ寝していないで、はやく灯りを点けて、お化粧でもしておきなよ」

すると、真っ暗な二階では、俄にばたばた物音がしだしていた。

「……しッ」

と、そこで声をころしていたのは娘の婆惜である。男と寝ていたものらしい。刺繍の枕も寝台の下に転がし、真白な深股もあらわに、もつるる裳裾を掻き合せている。みだれた雲は、たった今まで、張三の秘術にあやなされていた身もだえを、どんな白裸な狂痴にしていたことか、指で梳いても梳ききれない。

「ど、どうしよう?」

もっと仰天したのは、張三のほうだった。上役のそして旦那の、宋江が来たと聞いては、巣箱を引っくり返された二十日鼠のようなもの。あっちへ打つかりこっちへ戸惑い、チョロつくひまに、婆惜はすばやく、二階の裏窓を開けていた。