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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
おまえもほんとに駄々ッ娘だね、まあ、嘘でもいいからさ、酒でも飲ませて、ぽんとこう背中の一ツも叩いておあげよ、世話になった冥利にさ」
娘の耳へ口を寄せて、一方へはなだめ、一方には、階段の下に待たせておいた宋江へ向って、閻婆はやきもき、両面二タ役を使い分けていた。
「さあさあ、だんな、どうぞお上がりくださいませな。あんまりお見えにならないので、この娘はすッかり辛気になって、この通りなんでございますの。……いいえもう、心のうちでは、お声を聞いて、わくわくなンでございましょうが、わざと拗ているんでございますよ。ほんに、待ち焦れ過ぎた女心ッてものは、ツンとしたり、泣いてみせたり……。ほほほほほ。……はいはい今すぐ階下から御酒でも支度してまいりますから」
あとはあとのこと。二人だけでおけばどうにかなるだろう。閻婆は狡い眼つきを宋江の姿に交わして、するりと階下へ抜けてしまう。
部屋には螺鈿ぢらしの塗卓、朱の椅子。百花模様の帳で室の半ぶんを仕切り、奥に片寄せて寝台が見える。
衣桁の下には、脱ぎっ放しの絹の寝衣やら、刺繍枕が乱れていた。錫の燭台の明りが流れている床に、珠の釵子が一本落ちているのを、宋江もチラと見た風だし、婆惜もはっと気がついた。