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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「おっ……な、なんだって人を突き飛ばしゃあがるんだ。おらあ、牝豚に用があって来たんじゃねえぜ。旦那にちょっと」

「それが虫のいい無頼漢の科白というものさ。いいかい。日ごろご厄介になっている恩人様が、たまにこうして、世間離れてシッポリと愉しんでいらっしゃるのにさ、何だって、お愉しみの邪魔をするのだい。さ、階下へ降りなよ、降りなってばさ」

「あっ、あぶねえ」

「見損なッちゃいけないよ」

と閻婆は、酒の酔いにまかせて、いきなり唐牛児の横っ面へ、ぴしゃっと一つお見舞い申した。

宋江のてまえ、多少怯んでいた牛児も、こうなっては腕を捲くッて、居直らざるをえない。とつぜん、どたんと家鳴りがしたのは、こんどは婆さんのほうが、壁の下に大きな尻もちでもついたらしい。取ッ組み合いが始まった。しかし婆さんの毒舌と腕力もなかなかである。とうとう唐牛児も尻ッ尾を巻いて、

「死に損ないのどら猫め。覚えてやがれ」

と、捨て科白を吐いて、どうやら露地から往来の方へ逃げ失せてしまった様子。

水瓶の水を柄杓からがぶがぶ呑んで、ひと息入れると、婆さんはすぐもとの二階部屋へあがって来た。そしていよいよチーンと冴え白らけている娘と宋江の仲を笑って、さらにペチャクチャ執りなし言に努めたり、また寝室の帳台を開けて、そこの香炉に、春情香を焚べたりした。