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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

かえって、わが愚が憐れまれた。何をか好んで物ずきに、かかる売女の侮辱を忍んでいなければならないのか――と。

「ええもう、寝ぐるしい」

再度、女が呟いたのを機ッかけに、彼はバッと蒲団を刎ねて脱け出していた。女の白い足がとたんにむきだされたので、反射的に婆惜も壁へ向ったまま叫び出した。

「なにするのッ、イヤな人ね! ほんとにもう!」

「おまえこそ。なにを笑うんだ、ばかにすなっ」

「いけないの。おかしいからよ。そんな男ッて、あるかしら。男なの、あんた」

「言ったな。婆惜。もう来ない!」

「おお、うれしい。決して、おひき止めなんかしませんわよ」

宋江は耳朶の辺に、じんと鎚で焼き鉄を打たれたような鈍痛を感じた。ぐらとしてくる。下袴をはくのも帯を締めたのも夢中だった。両手で扉を突くやいな、どどどと階段を降りて行った。

「……あらっ、だんな。どうなすったんですよ、だんなってば」

後ろに閻婆の仰山な声は聞えたが、一顧をくれる余裕もなかった。そこの横丁から盗児のごとく逃げ出していたのである。町はとっくに丑満過ぎ、人ッ子ひとり往来の影もない。

すると四ツ辻に、ぽちと赤く、露灯の灯が見えた。