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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

それは夜ッぴての遊蕩客のためにある夜通し屋の一荷で、生姜湯売りの王爺さんだ。ひょいと見かけて。

「おやおや、押司さまではございませんか。お役署御用で、夜明かしでもなすったんで」

「なあに、友達の家で少し飲み過ぎてね、つい家へ帰りそびれたのさ」

「酔いざましには、二陳湯などいいもンでございますが」

「そうだ、一杯もらおう。……おっと、ありがとう、いつもよく稼ぐなあ、爺さん」

「お蔭さんで、正直に働いておりますせいか、皆さんから、ご贔屓にしていただいておりまするで」

「考えてみると、役署勤めの深夜には、こうして、爺さんの梅子湯やら生姜湯などに、ずいぶん長年のあいだ温められてきたなあ。そしていつもお前さんは、代金も取ってくれない」

「なんの、押司さま。当りまえでございますよ」

「どうしてね?」

「だって、しがない私どもが、こうして真面目にやっていけるのも、旦那がたお役人が、寝る眼も寝ず、悪い奴に悪いことをさせねえように守っていて下さるからこそで」

「ああそういわれちゃあ、面目ないよ」

「どういたしまして、まったく警邏のお蔭さんでございますよ。こうして、町の衆が、夜を安楽に寝ていられますのもね」