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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「そうそう、思い出したよ、爺さん」
「へい、なんでございますえ」
「いつかおまえに、何か望みはないかと訊いてやったら、人並みに棺桶ぐらいは買って備えておきたいと言ったッけ。よろしい。その棺桶はわしが買ってやると約束したことがあるなあ」
「よくお覚えおきくださいました。……それやもう、分に過ぎた望みか存じませんが、もしそれが能うなら、来世は馬にも驢馬にもなって、ご恩報じをいたしまするで」
王爺さんは、さびしげに笑った。――宋朝その頃の風習として、生前に自分の棺桶を買って家にそなえて置くことが、老後の人の最大な美風とされていたからだった。
ふと。宋江は今、この王爺さんに、それを買ってやるといった旧約を思い出したのである。余りな自己嫌厭や慚愧のあとでは、人間はふと、他の人間の中に“真”を求めたり美徳のまねごとでもして自己の救いに置き代えてみたくなるものらしい。――で、宋江は、しきりに懐中をさぐり出した。心なく劉唐から受けておいたあの十両。
あれを、王爺さんの棺桶代にめぐんでやろう、という気もちからだった。
「……おや。……はてな。たしかに手紙は書類挟みに。……金も一しょにしていたはずだが」