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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

おまえは残って、この下を調べてくれ」

と、眼顔のうちに、何かを語って、ぷいとそこを外してしまった。

まっ暗な階段を降りると、何か顔に触る物がある。布縒の細綱らしい。引いてみると、りりりん……と頭の上で銅鈴がいい音で鳴った。

「だれか……?」

奥のほうから這い出してきた人影がある。じっと見れば、それなん宋江その人にちがいない。ここ久しく日の目も見ず、蒼白の面にのほつれ毛も傷々しく、暗闇の中でも肩の窶れがわかるほどだった。

「や、朱同じゃないか。ああついに来たな!」

「押司。びっくりなさることはない。雷横も自分も、日頃のあなたは知っている。公私にわたって、多年温情を蒙っている二人が来たのだ。なんでその恩人を、縄目にかけていいものか」

「でも、それでは、お身方が役署へ対して、申し開きが相立つまい」

「なあに、どうにだって、虚構はできる。知事も内々はあなたを逃がしたいのだ。庁内でもあの張文遠のほうがよっぽど憎むべき悪人だといっている声は多い。……どうか、他国へ逃げておくんなさい。どこかお心当りはありませんか」

「かたじけない」と、宋江はしばし頸を垂れて――「どこといって、さし当り確たるあてもないが、思いうかぶのは第一に滄州の名士、小旋風柴進」