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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
雷横も酔い、朱同も酔い、ほどなく夜空の下をどっと潮のように引揚げてしまった。
「残念でした」
二人は、知事に復命した。
「宋江はすでにこの地におりません、事件いらい実家にも姿を見せないという老父の言はほんとでしょう。いや実家といっても、籍は脱けている他人同様な奴の身軽さ。どうも致し方ございません」
「む……」と、知事はもっともらしく呻いて、
「やはり他州へ逐電ときまったか。最初から宋家に潜伏していると、強情に言い張っていたのはかの張文遠じゃ。ぜひもない。この上は、罪状触れと人相書を作成して、諸州の役署へ布達しておけ」
知事はしたり顔である。常套的な公式の手続きを運ばす一方、ひそかに朱同から、張文遠と閻婆を裏からなだめさせた。
内心、張にも痛い脛がある。
自分と宋江のいきさつについて、部内にはヒソヒソ声があるふうだし、婆さんはすぐ金にころぶ。痛し痒しだ。このうえ下手にごねてみずから現職の地位を失うよりはと、彼もそこは利に賢く、軟化の色をやがて見せた。
こうして、とにかく“婆惜殺し一件”は、城県署のあぶない網の目から、ひろく懸賞金付きで諸州布令となり、そして、時の無数な波紋のうちの小波紋として、いつか見送られて過ぎたものだった。