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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「この武松が一つ街に居るうちはよござんすが、たとえ百日でも、留守となるとそいつが弟の身には心配でなりませんのさ。どうかあっしの留守中は、人の騙しに乗ったり、人のダシに使われないように、気をつけておくんなさいよ。……また嫂さんへもだ。どうぞお願い申しますぜ。夫婦は二世とやら、こんな兄でも連れ添う良人、大事にしてやっておくんなさい。よくよく嬶の尻に敷かれッ放しな洟ッ垂らしの亭主だと、世間の奴アいってますぜ。ねえ嫂さん、世間態だけでも、そこはすこし良人を立てて、どうか仲よく暮しておくんなさいな」

風向きが自分へ変って来たとみると、金蓮は耳もとを充血させて、ついと横を向いてしまったが、いきなり袂の洟紙をさぐって、良人の武大の前へ抛ッた。

「あんた。それで洟でもかンでよ、見ッともない。洟も涙も一しょくたにこぼしてさ。……だから私までが二郎さんから、まるで悪女か人非人みたいにいつもコキ下ろされているんだわ」

武松はそれを機に立った。そして路銀の一部を割いた金を卓の上に残して、

「嫂さん、これは先ごろお世話になった下宿料だ、と思って取っといておくんなさい。そしてあっしの留守中は、なるべく兄さんの稼ぎも楽にしてやって、夕方は必ず早目に帰るように。