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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「おふざけでない。やっとこ喰べるがせきの山の饅頭売りのくせにしてさ。こんな甲斐性なしの亭主ってあるかしら。ちッ、薄野呂の、おんぼろ宿六、勝手におしッ」
「晩の酒は買ってあるかい。ねえ金蓮、何をぷんぷんするんだよ」
「お酒。そんな稼ぎを誰がしたの」
「弟がお金をくれて行ったじゃないか」
「あれッぱかしの金、いつまであると思ってるんだ。とうに近所の払いに消えてますよ。あしたから、こんな早くに帰って来たら、飯も食べさせないからいい……」
遠山の雪肌も解け初めて、この陽穀県の小さい盆地の町にも、いつか春の訪れが萌えかけていた。ひとり萌えるにもやり場のないものは、金蓮の肉体にだけ潜んでいる。
金蓮はその日、桟叉(竹竿に叉をつけた物)を持って、門口へ出ていた。廂の芦簾の片方が風に外れたので掛け直していたのである。――が、冬中の雪に廂の釘も腐ッていたのだろうか、一方を掛けているまに一方がバサーと落ちた。「あっ」と金蓮は、簾を避けてよろめいた。と、後ろに人がいた。通りかかりの往来の者らしい。その者も軽く「ア。あぶない」といって金蓮の体をささえ、そして、相顧みてわけもなくニッと笑いあった。