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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
春は日永になり、武大の帰りもだんだん遅くなっている。早く帰れば金蓮に頭ごなしに呶鳴られるからだった。
「ああ、くたびれたよ金蓮。稀にゃ半日でも休ませてもらえねえかなあ」
「好きなこといってるわ。あらなアに。蒸籠のお饅頭がまだ幾つも売れ残っているじゃないの」
「だって、仕方がねえわ。日はどっぷり暮れちゃうし、晩に饅頭なぞ売れやしねえもの」
「おまえさんはまた公園で居眠りばかりしてるんでしょ。いつぞやは、饅頭をみんな、犬に食われてベソを掻いて帰って来るしさ。……それで休みたいもないもんだ」
「おや、金蓮。おまえ酒機嫌じゃないか。それに、どうしたんだい、後ろに綺麗な糸屑がたかっている」
「あんたが意気地がないからよ……わたしここ五、六日ほど、毎日お針仕事に通ってるんだわ」
「そうかい。……すまねえのう金蓮。いったい、お針仕事とは、どこへ通っているんだね」
「お隣の王婆さんよ。お婆さんが親切に言って来てくれたの。どこかご大家のお祝い着を頼まれたんですって。そして小費い稼ぎにどう? っていうからさ」
「だが、酒振舞いは、おかしいじゃねえか。何もお針仕事の針子にさ、酒を出すなんて」