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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

と、酒を位牌にそそぎ、また冥土供養の紙銭をつかんで燻べ終ると、彼は声を放っておいおいと泣きだした。

つねには、どんなことがあろうと涙を知らない、しかも景陽岡の猛虎をも打ち殺したほどな男が、こう満身を打ちふるわせて泣いたのだから、居合せた近所の衆もぞッとさせられたのは無理もない。ほどなくみなこそこそと腰を上げて去り、片隅に居てともにすすり泣きを装っていた金蓮も姿を消して、いつか二階の自分の居間に寝込んでしまった。

「……おや。もう三ツ刻か」

真夜半の街を行く刻ノ太鼓に眼をさまして、武松はふと周囲を見まわした。祭壇の前の菅莚の上で、通夜の自分はゴロ寝していたのである。

二人の従者も酒に酔って、庭向きの廂の下に倚ッかかったまま性体もない。深沈と夜は更けに、更けて行き、まさに屋の棟も三寸下がるという丑満刻の人気ない冷たさだけが肌身にせまる。

「ああ、この世でたった一人の兄貴ももういないのか。……ええ残念な。兄貴の弱虫め。なぜ死ぬなら死ぬように、はっきり死んで行かないのだ」

またしても、独り泣きに彼が呟いた時だった。

サヤサヤと壁の紙銭の吊り花が灯影にうごいた。