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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

ひとたび毒酒に酔わされると、生きてその屋の軒を出た者はない。

「ホ、ホ、ホ、ホ。いくらでも、お後の客は絶えないもんだネ」

店の看板女房は、厚化粧して、緑紗の袍衣に、真紅の裙を着け、生ブ毛の光る腕首には、黄金の腕輪を篏めたりなどしているジプシーのような女だった。

女の異名は母夜叉、親の名は孫。

人呼んで、母夜叉の孫二娘という。

これの亭主は、菜園子の張青という者で、元、光明寺の畑番をしていた男だ。腕だけはすこぶる強い。

ところが、こういう悪業の成果も相手による。いつもそうそう巧くいくものではない。――武松のときが、その一例だ。武松は現につい先ごろ、兄の武大が人に毒殺されていたので、

「はてな、この酒の味は?」

と、すぐ感づき、最初の一ト口から、女に内緒でベッと吐き出していたのである。――それから飲んだと見せたのも、ぐたと仆れて見せたのも、すべて彼のは偽態だった。そして罠に陥ちたのは、彼ではなくて、賊の母夜叉と張青夫婦の方だった。

「いざ、料理を」

と、母夜叉が、彼のそら死の体へ手を出したとき、武松はむくと起き上がって、女を取ッちめ、そこへ現われた張青も、難なく叩き伏せてしまった。