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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
いよいよ土牢行きかな? 思っていると、さにあらず、清洒な一屋の明るい部屋だ。見れば調度の品やきれいな寝台まで供えてある。
昼飯には、丸焼の鶏一羽、野菜の煮合せ、白い麭、汁、それにしかも葡萄の酒。
「ああ腹がくちくなった」
何気なく扉を押してみると、錠もおろしてない。そこで武松は一ト散歩を思い立ち、獄営の広い牧場ほどな所を、あっちこっち歩き廻った。
真夏の入道雲の下には、蟻地獄のような囚人の群れが、腰鎖のまま、気息奄々と働いていた。
なにしろ、六月末のカンカン照りだ。囚人たちには汗をふく木蔭もない。鍬の下から火が燃え、担ぐ石材は熱鉄の焔を立て、汲む水も湯のような焦熱の刑場だった。
「おい、みんな」
ぶらと、武松は来て、暢気そうに、手をうしろに組んで話しかけた。
「なんだって、昼寝もしねえで、こんな炎天に働いているのよ」
「え。昼寝だと」
囚人たちの半分は笑いだし、あとの半分は、糞ッ腹を立てたらしく、中の一人がこういった。
「何ってやンでい。どこの米の虫か知らねえが、後生楽な音を吹きやがって、おらたちの身になってみろい。でもナ、ここは終身牢や死刑牢とは違うから、こんな日向はまだ、この世の極楽だと思って、苦役の汗をしぼッてるんだ。