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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「なぜいえねえ」
「ただの酒場や料理屋とは違います。おかみさんは、蒋門神親分のお持ち物でございますからね」
「だからよ……蒋門神を呼びにやるより、そこのすべたを泣かした方が、野郎をここへ素ッ飛ばせて来る早道だろうじゃあねえか」
聞くと、帳場の女は、横の肉切り台に向って包丁をうごかしていた数名の料理人に向って、女将軍のように、往来を指さして叫んだ。
「おまえたち、あのゲジゲジを外へ、抓み出しておしまい!」
しかし、ことばも終らぬまに、武松の体は前の酒板を躍り越えていた。そして女の金蛇の腕環を取って、そこからつかみ出すやいな、土間の一隅に埋けてあった三箇の大きな酒甕のうちの一つへ、女将の体を逆しまに放り込んでしまった。
わっと一面な酒飛沫。それとともに、渦となッた乱闘の下から、肉切り包丁やら手玉に取られた人間が三つも四つも往来へすッ飛んで行った。つづいて武松も、すばやく往来へ出て突ッ立っている。いやその前には、すでに急を知って飛んで来た蒋門神が仁王立ちとなり、武松をにらまえて眉に憤怒の炎を立てていた。
蒋門神と武松との素手の格闘は、しばし辻の群集を沸きたたせた。