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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

武松も巨漢だが、蒋門神の長身には、顎の下にもとどかない。しかし、蒋はこのところ、女色と酒にすさみきり、相手が相手だったせいもあろうが、たちまち脾腹に雷霆の一拳は食うし、額にも一蹴をうけてよろめき、見かけほどもなく、その精彩を欠いていた。

もっとも武松の拳法“玉環”の一手や、“龍髯打雲”とか“水斬”の術などは、景陽岡の猛虎ですら、眼を眩したほどなもの。いかに蒋門神でも、しょせんは及ばなかったにちがいない。やがてはくたんくたんにたたまれて、呼吸もありやなし、地面にへいつくばッていた。

「おい、どうした。青大将」

「お、おそれいりました」

「ただ恐れ入るじゃあ、勘弁できねえ。おれのいう三箇条を呑むなら、命だけは助けてやらあ。どうだ?」

「おっしゃっておくんなさい」

「第一は、即刻、ここの店を、元の持主の施恩へそっくり返上いたすことだ」

「わかりました」

「第二は、盛り場の顔役全部をここに集め、大衆の前で、地にひたえをスリつけ詫びをいえ」

「おっしゃる通りにいたします」

「次には、即刻ここを立退いて、二度と孟州の盛り場に面を出すな。見つけたがさいご、その馬面を引ン捻じるぞ」