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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

軽く撲ッたつもりだったが、なにしろ武松の掌のひらである。亭主は顔をかかえながら、横ッ飛びに、彼方の四人の卓へぶつかって、ひッくりかえった。

怒ったのは、卓の主人役をしていた紅帽青襟の少年郎だった。ぬっと立って、

「君。戸外へ出給え」

「よしっ、出てやる」

躍り出た二人はすでに、二羽の闘鶏が、逆羽を立てて、戦意を研ぎ合う姿だった。

「――行者。出家ハ瞋ルベカラズ、マタ、貪欲ナルベカラズ――とか聞いてるが」

「洒落くせえ、うぬはこの村の青二才か」

「大きなお世話だ。察するところ、きさまは出家の道も恥も知らぬ偽行者だな」

偽行者か、との一言には、武松をドキとさせたものがあったに相違ない。彼の手はほとんど無意識に戒刀の柄へ走った。

しかし、もっと迅かったのは、少年郎の姿だった。飛燕の業といってよい。武松の柄の手をばッと間髪に蹴上げていた。

「やったな、味を」

武行者は、肘を蹴られて、かえって相手の力量の程度をすぐ察知したかのようだった。戒刀にはおよばない。そして敢て、素手を示しつつ身をすすませた。ばッと格闘の卍がおこる。少年郎の巨体が大地へ叩きつけられ、刎ね起きたが、また投げられ、ついに武行者の下となって、その鉄拳の乱打にウもスもいわなくなった。