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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

二人はそこでも再び孔家の方へ恩遇を謝し、やがて西と東へ袂を別った。

ここで行者武松の行く先は、ひとまず後にゆずって。

ひとり清風山へ向って、そしてほどなく、山路へさしかかっていた宋江の足どりについて行ってみると、案外この山は、名のようなやさしい山ではない。

峠に立って打見やれば、八面嵯峨たる谷の断岸。

どこかを行く渓流は、とどろの谺を呼んで物凄まじい。老木のつた葛は千条の黒蛇に見える。人の足音に驚いて跳ぶ氈鹿。かえって人間に興味をもつかのように梢から梢へ奇声をあげてついてくる群猿の影。――宋江はつい自然のおもしろさに釣られて歩いた。

ところが、やがて原始林の青ぐらい道へ入ると、とつぜん彼の足元で、リ・リ・リ・リン……と鈴が鳴った。

「おや?」

と足にからみついた葛縄を取りのぞいているまに、すでに彼の運命は変っていた。豹のごとき男女が無慮二、三十人も跳びついて来て、彼のからだをがんじ絡めに、どこかへ引ッかついで行ってしまったのだ。

ここにも緑林(盗賊)の巣があった。

洞窟を背景に、ひとつの賊殿ともいえる山寨を築造し、その頭は姓を燕、名を順といい、あだ名を錦毛虎とよばれているものだった。