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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

とくに人間の生肝は美味で精力薬になるという迷信があり、その生肝をとるには、さんざん冷水をあびせて、肝臓の熱い血をちらしておき、そこを抉りとるのがいいなどといわれていた。

「そうだ。したくしろ」

それと呑みこんで、錦毛虎はすぐ、手下の者へ、生肝料理の準備を命じた。

するとその間に、宋江の持物を、卓に取寄せて、仔細にしらべていた白面郎が、オヤと目をみはった顔つきで、隣の錦毛虎燕順に、一通の反古手紙をみせていた。――宋江の名があったからである。

「やいやい、そんな物は、一度そっちへ持って返れ」

燕順は急に呶鳴った。生肝とりの大俎板やら包丁水桶などをかついで来た子分どもを慌てて追い返してから、宋江へ向って訊いた。

「旅人。おめえの名は?」

「わしは、宋公明だ」

「あの城県宋家村の、及時雨宋江とよく似た名だな」

「その宋江なのだ」

「だれがよ」

「わしが」

「この手紙の名宛人がつまりお前さんだというのかね」

「宋家村の宋江は二人とはいない」

「げっ! それじゃあ、あなたは」

燕順以下、賊頭二名は、腰をぬかすほど仰天した。

彼らの仲間内で、及時雨宋江の名は、仁愛と畏敬の対象として、広く絶大な響きをもっていたらしい。